やべえと思ったHIPHOP①
突然だが読者の皆様方は自分の「好き」を理解してくれる味方をお持ちだろうか。私はと言うと、特には居ない。
何気なくSNSを見ていると好きなものを好きと言うだけで肯定されるひとが居て嫉妬や羨望で感情がぐっちゃぐちゃになってしまう筆者であるが、個々人をよく見ると彼らの殆どは何かしら特別なスキルを身につけているわけでもなく、一般人として一般人に受け入れられていることが多いと思う。
早い話がひとに「わかる!私もそれ好き!」と言われるには(かなり矛盾しているが)「相手もわかるものを紹介すること」が重要なのだ。
しかし、生憎筆者は「世間にまだ知られていないもの」を広めることに喜びを見出す性分で、そうでなくても世間と守備範囲がズレているのでそういうことは出来ない。
そういうわけで、今回も読者の皆様には「なにそれ〜知らないし」と言われるであろう筆者のおすすめHIPHOPソングを布教していこうと思う。
YouTubeで見れるものから紹介するので余裕があればぜひ見ていただきたい。ちなみに全部ジャパンの曲だ。
Sai no Kawara/crystal-z
crystal-z Sai no Kawara - YouTube
「コメント欄を最後まで見るの我慢して良かったです」という感想がトップに表示されている当曲(動画)は2020年、日本中が最も騒然とした大問題作だ。
しかし、一度も見たことないという方がほとんどである。この曲は多くのひとに聴かれることで初めて意味を成す作品なので是非見ていただきたい。
実際、この曲は瞬く間にテレビや新聞でも話題に上がっており、投稿から一年がたった今なお特集や制作者・crystal-zにインタビューが組まれるほど社会的影響力を持つ作品となっている。
表面的に分析するとこの曲は投稿当時世界規模で流行っていたHIPHOPジャンル・Lo-Fi HipHopと呼ばれる落ち着いた温かみのあるサウンドが終始流れ、映像もひとりの受験生が黙々と参考書を解いている映像が繰り返し流れる質素なつくりだ。
目指してみようか医学の道
それは茨の道
だけど欲しいのは 日々
なにかに打ち込める揺るぎない意志
俺が生きてるこの命の意味
歌詞の内容は長く続けていたクルー(音楽用語、グループの意味)を解散した主人公が32歳で音楽以外の道─医学を志すところから始まる。
そこから医大合格のために費やした努力の日々が詳細に綴られ、見えない壁に阻まれ、更に大切なものを犠牲にして先を目指し…といった話が語られていく。
これだけ聴くと(HIPHOPとしては珍しいが)どこにでもある普通の曲にも見えるのだが、実は初見では絶対に気づかない伏線のカミングアウトが動画のラストに現れ、もう一度見返すことで初めて意味が伝わる構成であり、それこそが話題を呼んだ要因なのである。
もう「えっこの映像ってこういうこと!?」「この歌詞ってそういうことか!!」が溢れて止まらない。
作者いわく「まだ半分しか見つかっていない」と語られるほど膨大な量の伏線が映像、歌詞、更にはクリエイターにしか伝わらないようなメタ的な部分にまで行き渡っているこの曲は一度聴くと心臓がえぐられるような衝撃を受けること間違いなしだ。
Akuma Emoji/(sic)boy
(sic)boy,KM - Akuma Emoji - YouTube
こちらは前述のSai no Kawaraとはまた別の意味合いで衝撃を呼んだ作品。
筆者も初めて聴いた当時「HIPHOPでこんなにロックンロールなことができるのか!!」と衝撃を受けた(sic)boyのラップと、前々からRockの要素が色濃いBeatを制作していたKMの魅力が初めて爆発した奇跡の融合とも呼べる曲になっている。
Send me right now Akuma Emoji ムラサキ
Makin’ new CULT 首振れなきゃ置き去り
9 tails fox クラマナルトウズマキ
Demon in my head 日々悪魔に餌やり
音楽好きなら一度聴いたら頭から離れないこと間違いなしな豪快な歌詞とエッジの効いた(sic)boyの声、そしてこれまでのHIPHOPが掲げていた「ループの美学(同じメロディを繰り返し流した方が歌詞と重みが伝わるとする考え方)」を恐れることなく豪快に破ったKMのBeatはHIPHOPシーンに決定的な革命を起こした。そして何よりカッコイイ。厨二心が揺さぶられる名曲である。
眠れない夜/TOFU
【Music Video】TOFU - 眠れない夜 (prod. Homunculu$) - YouTube
「眠れない夜は私とおしゃべりしていきませんか?」でお馴染みSpoonの広告メロディをサンプリングした最高にイカしたBeatにラップスタア誕生でHIPHOPオタクに衝撃を与えたTOFUが乗るのだ。HIPHOP好きなやつは絶対聴く。読者諸君も聴くべきなのである。聴かないヤツは個人的にムカつく。
インターネットではクソ広告としても名高いSpoonのBGMを敢えて使い、その上でめっちゃ気持ち良いメロディを作るのだからHIPHOP好きでなくても一部のオタクは「スゲぇぇぇぇぇぇ」って叫ぶに違いない。
歌詞もさりげなくSpoonにまつわる単語を出しつつ成立させているのが良い。
読者諸君はこれを聴いたら明日学校や職場や家族に「Spoon広告をサンプリングしたHIPHOP曲があるんだよ」とドヤ顔で広めるべきだと思う。
August/604
[August] MAVEL x HANG x TOCCHI (prod.CraftBeatz) - YouTube
HIPHOPといえば何が思いつくだろう?
ドラッグや暴力、貧困、金持ち自慢といった偏見(まあそういう要素もある)もあれば「社会問題を訴える音楽=レベルミュージック」みたいな意識の高い返答もあるだろう。
今作のテーマは「猫」だ。
は?と思うかもしれない。猫だ。
正確には「メンバーの飼い猫にまつわる色々」だが、猫を飼うに至ったキッカケ、猫との生活、猫のために稼ぐぞ、などの内容はもう、概ね「猫」だ。
ここまで聴くともうギャグラップにしか聴こえないかも知れないが、全てがちゃんと「HIPHOP」なのである。
CraftBeatzのLo-Fi風味漂う昔ながらの、尚且つクオリティがエグいBeatの上で各々が等身大にRapする。
「自分を大きく見せるため」でも「立ち位置を得るため」でもないが、そこが良い。音楽的に評価することも出来るのだが、取り敢えずはHIPHOPを敬遠していたひとにも刺さるであろうどこまでも優しい音楽と、可愛い猫の映像を是非見ていただきたい。
個人的にMAVEL(1verse目)の歌詞が好き。
さて、今回はシンプルに「みんなに教えたいHIPHOP」をコンセプトに記事を書いてみたのだが、いかがだろう。多少なりとも「同じような記事がまた読みたい」とか「こういう記事も書いて欲しい」というのがあればHIPHOPに限らず色々感想を書いて貰えると有難い。
なるべく高い頻度でコツコツ記事を上げるので、リピーターも増えて欲しい。
あと、有名になりたい。
サブスクで聴けるHIPHOPの名盤紹介①
Japanese-HipHopの名門レーベルと言えば何を思い浮かべるだろう。YENTOWN, dogear Records, cutting edge etc…
色々ある中で筆者が真っ先に思い浮かんだのはSUMMITだ。
HIPHOP歴の浅い筆者がチェック済みのアーティストだけでもPSG, PUNPEE, SIMI LAB, THE OTOGIBANASHI'S, C.O.S.A., VaVaが現役で在籍しており、過去所属したアーティストにRAU DEF, QNが名を連ねる。ある程度HIPHOPをかじったことがあれば否が応でも目に入る面々だ。
HIPHOPに疎い方々にも伝わるようにラフに説明すると、PUNPEEは水曜日のダウンタウンのOPテーマを制作、星野源と繋がりがあり2020年には合作を発表、あの加山雄三のオファーを受けて「お嫁においで2015」を制作・発表しするなどHIPHOPシーン以外でもしれっと活躍しまくっている人物である。ちょっと前に元AKBのメンバーと結婚して大々的に報じられたりもした。
ちなみに前述のPSGはPUNPEEと5lack(PUNPEEの弟)によるHIPHOPユニットで5lackも現在進行形で様々な活動をしている。
VaVaはSUMMITでの在籍歴が比較的若く、さいきん世間の注目を浴びはじめた期待のアーティスト。同じSUMMIT所属のTHE OTOGIBANASHI'Sに彼らの代表曲を含め多数のBeatを提供するなどしてコアなファンに認知された後、2017年に平井堅の「魔法って言っていいかな?」のRemixを手がけた。
因みにニコニコ動画や2ちゃんねる、日本のサブカルチャーで育った生粋のオタクで、自身の楽曲でもそれがダイレクトに反映されている(Beatのサンプリング元がポケモンのBGMだったりアスキーアートを題材にした曲を作ったりなど)。
SIMI LABはその名を耳にしたコアなHIPHOPマニアは即座に反応する経歴・作風ともにガラパゴスな実力派集団。OMSBとQNはSIMI LABのメンバー(元メンバー)の一角。
RAU DEFは若いうちからスペースシャワーTVでその年最注目のアーティストに与えられる「LEADER OF NEW SCHOOL」を受賞するなど活躍が目覚ましいラッパーで、どこか爽やかでキレを感じさせながらもゴリゴリなHIPHOPが得意なラッパーだ。
C.O.S.Aはグループなどには所属せずソロで活動しているBeat Maker兼Rapperだが、近年KID FRESINOとのアルバム合作などで脚光を浴びてそのリリシズムがコアなファンを刺しHIPHOPシーンにおいて磐石の地位を築いた。
ここまで書いてから気づいたが、SUMMITはビートメイクとラップの文武両道(?)アーティストが多い。そして世間や若者のあいだで大ブレイクするような作風ではないものの、それぞれが実力に裏打ちされた安定感のある楽曲を制作している。
この記事を書くにあたって流し見していたWikipediaをよくよく見てみれば、そもそもの“SUMMIT”が代表の増田氏による「小さくても自分なりの山をつくれたら」という考えから命名されたものらしいから、納得だ。
それなりに音楽を掘るのが好きなひとはご存知な通り、個々のレーベルの個性は所属アーティストの傾向で知ることが出来る。気になるレーベルができたときは所属メンバーを見てみると良いかもしれない。
さて、導入ができあがったところで本題に入ろう。
おおよそ予想できると思うが、今回紹介する名盤はSUMMIT所属アーティストのものである。
筆者が音楽系の記事を書くに至る話題は、だいたいそのときたまたま聴いていた曲から連想されたものである。その方が筆が乗る。
というわけで紹介するのはQN「New Country」。
客演がいっぱいで個々の楽曲が元・SIMI LABメンバーであることを感じさせる無国籍な音で構成されているのだが、全体のバランスが絶妙で「アルバム↔ひとつの作品」が成立していて連続で聴いてて違和感がない。
よくよく聴くと色々な音やFlowを曲に取り込んでて貪欲なスタンスが伝わってくるし、ジャジーな上ネタの曲もあれば、アフリカ音楽っぽいのや筆者にはジャンルがなんだかわからないものもあるのだが、全てがHIPHOPの原初的な煙たさでコーティングされていて統一感を感じる。煙たくて温い(ぬくい)のだ。
実験的でありながら統率の取れた作品構成は安心感を感じさせる。個人的にカフェや作業のBGMに欲しい。蕩けて捗らないだろうけど。
ちなみに全部で13曲、総再生時間は39分ほど。
休憩がてらサクッと聴いてよし、ガッツリ神経を研ぎ澄ませるのもよし、ループ再生するもよしといった感じ。筆者は大抵の曲を全パターンで聴く。
そんな感じで、一応は普段HIPHOPを聴かないひとにも伝わるように説明を挟みながら名盤紹介をしてみた。
読者の皆様型におかれましては梅雨明けまでもうしばらくあるし、今年はまだまだ自粛が続きそうなので色々聴いてみるのも良いんでないかと思う。
筆者の方はというと次回以降の投稿テーマはまだ決めていないのだが、趣向を変えて刺激的な話題をチョイスしたら喜ばれるだろうな、と思いつつそのときの思いつきで書くだろうなあと未来の自分を考えたりするのだった。